この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
 
『とにかく圭ちゃんは、おめでとうだな。
 式とかどうするんだ?
 圭ちゃんの結婚式だから、
 列席者の人数、すごいことになるぞ』

『え? あ、式か。
 そういや考えてなかった』

『なんだ? 話しあってないのか?』

ホッケの身を口へ運びかけて、ぽかんと口をあけたまま圭司はうなずいた。

『カネかかることだから、
 きっと麻衣ちゃん、気を使ってるんだよ。
 でもカネはどうにでもなる。
 足りない分は俺だって融通するしさ。
 な、派手にやろうよ。な』

『なんで浩ちゃんがそんなに息巻くんだよ』
 
『そりゃそうなるさ。
 親友と俺の妹分が一緒になるんだから。
 ああ、めでたい。思い切り盛り上がろ。な』

渡瀬はうれしそうに目を輝かせ、仲間の名前を読みあげながら指を折りたたんでいく。

そんな渡瀬を見ながら圭司は考えていた。
麻衣はそういう浮かれたことを一切口にしない。
リングさえ要らないと言った。

それは、麻衣が持って生まれた賢さと慎み深さとは別の、期待を抱くことで生じる「失望への不安」が、軽々しい発言を自制させているからだろうと圭司は思った。

好事にひそむ¨魔¨というものを麻衣は知っている。
物事がうまく進んでいる時ほど、意外なところに落とし穴があるものだ。
それは積みあげたものを粉々に砕く力を持っている。

おそらく麻衣は、心うれしいことに戒(いまし)めをおぼえるのだろう。
はしゃぐことなくすべての動静をきちんと見極め、来たるべき慶びの日の訪れを粛々と待つつもりなのだ。

一年前、麻衣は幸福をつかみ損ねた。
花嫁になるはずだった彼女を待ちうけていたのは、ライスシャワーや一斉に飛立つ白鳩の羽音ではなく、深い失望であった。
そして失望が呼びこむ無力感を嫌というほど味わった。

圭司の心の中に、ある景色が構図となって飛びこんできた。
にわかに眺望のひらけた草原で、陽の当たる小高い丘を麻衣が見つめている。
丘を見つめる麻衣だけが雨に打たれていた。
しおれたブーケを胸に抱き、憧れとあきらめの入り混じった表情で、ずぶぬれになる花嫁姿の麻衣が涙ぐんでいた。
車道に立ち尽くしていた、あの雨の日のように。

圭司はたまらず、イメージの中へ駆け出して麻衣を抱きしめた。


 
/381ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ