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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
 
ICUの前で待つあいだ、エリは何度も表に出て取引先と連絡を取り、納期の調整を願い出ていた。

『エリちゃん、
 事務所に戻ったほうが良くないか?
 浩ちゃんのことは俺が……』

『いえ、私、います』

エリは厳しい目つきで圭司を見、きっぱりと言った。

『先生のそばに居たいです』

その凛々しさに圭司は一瞬たじろいだ。
エリの眼光には、休暇をとった罪悪感とはまったく別の熱い感情が照らし出されていたからだ。

圭司は、エリが抱く渡瀬への特別な愛情に気づいた。
そして自分の親友が、自分以外の人間に愛されていることに心強さを感じた。

待ってる人間を置いてくような奴じゃない。
アイツは必ず戻ってくる。

この状況でなぜか、渡瀬がICUから元気に飛び出してくるような、そんな気がして、圭司の心はぐんと伸びた。

ICUのドアが開く音に気づき、二人は一斉に立ち上がった。
神妙に構えた圭司とエリを見て、医師は『ご家族の方ですか?』と訊いた。
圭司は、友人だと答えたあと慌てて『十年近く同居してます』と付け加えた。
医師がエリに目を向けると、患者が経営する会社の従業員だとエリは答えた。
少し顔をしかめた医師は看護師からファイルを受け取り、すぐ脇の面談室へ二人を招き入れた。

『どうなんですか?』

せっつくようにして圭司がたずねると、医師は、椅子には座らず立ったまま冷静に答えた。

『ご本人の承諾を得られない状況ですので、
 具体的には、お話しできません。
 患者の個人情報ですから』

かすかな震えが圭司の中を走り抜けた。

――――(この期に及んで個人情報だと?)

やり場の無い怒りがこみ上げ、圭司は懸命にそれを飲みこんだ。
病院の薄汚い内装や、今いる面談室の安っぽい机や椅子、医師の羽織るウグイス色の上着のよれかたといった、目の前にある医療にかかわる全てのものが圭司の神経を逆なでした。



 
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