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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
 
夜空の奥深くで雷光がひらめき、いくらか間をあけて轟音が空からうち降りる。
雷鳴を待つわずかな瞬間が生みだす緊張は、得体の知れない絶大な力への畏(おそ)れを圭司に抱かせた。
心の深部に到達するその感覚が、いつの日か、今日のこの時間を思い出す符丁になるに違いないと、圭司は荒れる空模様を心に刻みつけた。

遠くに聞こえるサイレンの音が徐々に近づいてきて、救急搬送口がにわかに騒がしくなりはじめた。
圭司が立つ非常口から、低い植え込みの向こうにその様子がよく見えている。

乗り入れた救急車のハッチが開けられ、手際よく引っ張り出されたストレッチャーには若い女性が載せられており、意識を手放しただけなのか、すでにこと切れているのか、女性の腕はだらりと投げ出されている。
それを看護師が造作もなく上掛けの中へ戻し、固定ベルトを掛けなおした。

こぼれた魚をトロ箱へ放り込む漁師のような、職員のてきぱきとした動きの良さには、慣れというよりも、無機質さとでもいうべきものが漂っていた。

ひっきりなしに重篤(じゅうとく)な患者が救急搬送されてくるなかで、彼らがそのひとつひとつに感傷的な思いを寄せていては仕事にならないのだろう。
こと緊急性の高い現場で、心の、ある部分を切り離して淡々と責務をこなすことが、プロとしてあるべき姿勢であり、命への真摯な態度なのだと圭司は思った。


 
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