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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 


―――― その日の夕刻。

六人部屋の入り口にいちばん近いベッドで横になっていた渡瀬は、来客に気づいて、『よぉ』と手をあげた。
肩掛けのトートバッグを背にまわした早苗が、腰かがめて病室をのぞいている。

『よぉ』

早苗もおどけて手を上げた。

『近くまで来たもんだから。
 どう? 調子』

『うん、大丈夫。忙しいのに悪いな』

早苗は小さくかぶりを振って微笑み、腰をひねってスツールに座った。
早苗の美しさが、病室の雰囲気をぱっと明るくする。

『痛みはひいたの?』

『痛みより食い物だよ。
 パンチの効いたものが食べたい』

こぶしを作って力んだあと、渡瀬はくしゃりと顔を崩して笑った。

『ダメよ。パンチが効いたら
 またノックアウトされるわ。
 おとなしくしなさい』

早苗は、渡瀬をとがめながら、やはりかわいそうだなと目を伏せた。
次の手術で渡瀬はすい臓の半分近くを摘出する。

『早く治して、
 そしたらおいしいもの
 いっぱい食べよ。ね』

スーパーの袋をがさごそと探った早苗が、『ほら』と手のひらにりんごを見せた。

『ど、どうする気だ。お前、まさか』

渡瀬が芝居がかった口調でおおげさに言うと、早苗は上目でニヤリと悪党の笑みを浮かべ、

『むくのよ。あたしが』

と、低く静かにすごみ、唇をひしゃげて『フッフッフッ』と笑った。


 
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