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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 
いいものとの出会いが他の選択肢を奪うように、佐和は、圭司を知ってから他のカメラマンを使えなくなった。

多くの著名なフォトグラファーとともに初めて圭司を起用し、すったもんだの末にどうにか創刊にこぎつけたアッパーミドル向けの季刊誌は、ほとんどのファッション雑誌が発行部数を絞るなか、思いのほか好評を得た。

完売した書店から取次ぎ店への問い合わせがあとを絶たず、上層部からは手のひらを返したように月刊化すべしとの意見が出たほどだった。
出版人の佐和にとって、これ以上の喜びはない。

妥協を許さない編集姿勢であることを証明するために、アイテムを採りあげる側も編集部が本物と認めた布陣で挑んだ。
実力派ノンフィクションライターとともに時間をかけて取材し、作家性に秀でた写真家が納得のいくまでシャッターを切った。
心血を注いで作り上げた誌面は、アートブックといっても差しつかえない仕上がりで、そうしたものへ目を光らせる感度鋭い層が、こぞって読者になった。

なかでも圭司の写真は編集部内での評価が高く、読者アンケートでも多くの支持を得た。
長年ファッション誌を手がけてきた編集長も、ゲラ刷りのチェックで、「キャプションを拒むね」と圭司の写真を称賛した。

それには佐和も同感だった。
新進写真家や一部の大御所カメラマンには、己の美意識を過信したこれみよがしの自己主張を感じることが多いが、圭司の写真には、鑑賞者の心理に分け入ろうとし過ぎるあつかましさがない。
モデルや商品の、演出されないあるがままの姿が切り取られる。

被写体の微妙な心情をあらかじめ察知していたかのように、モデルの表情に不意に浮かび上がる一瞬の憂いや喜びの決定的瞬間を、圭司は絶対に外さないのだ。
撮影現場でのモニターチェックの際、自分の笑顔が映し出されたモニターの前で、「友達にプライベートを撮られたみたい」と、モデル自身が驚いていたのが佐和には印象的だった。



 
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