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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 
キッチンに戻った麻衣は、冷蔵庫の食材を確かめ、界隈のスーパーマーケットのチラシ情報をネットでチェックした。
このまま好天が続くなら午後からはさらに気温が上がるだろうし、夕立があるかもしれない。
昼までに買い物を済ませておこうと決めた。

ドレッサーの前に座ってテレビをつけると、朝の情報番組で芸能人の結婚話が取り沙汰されていた。
人気タレントの結婚は女性ファンに大きなショックを与えたようで、熱烈なファンの中には仕事を休んでしまうほど落ちこんだ人もいたらしく、ちょっとした社会現象となっているのだという。

――――(そりゃそうよ。ファンなら悲しいわ)

麻衣は女性ファンに同情しつつ、鼻の頭にファンデーションを叩きながら、それにしてもお気に入りの芸能人の結婚話で休める仕事とは、いったいどんな職種なのだろうかと不思議に思った。

CMがあけるとスタジオの雰囲気が一変した。
沈痛な面持ちのメインキャスターがフリップで事件の詳細を説明している。
その内容は、ファンデーションを塗る麻衣の手を止めた。

二十代前半の若い母親が四歳の娘を折檻し、殺した。
子供の遺体には複数のあざと火傷のあとがあり、顔全体の火傷は母親に熱湯をかけられたものだというのである。
母親は、重傷を負った娘を病院へも連れて行かず放置して出かけ、死なせたという。

警察の調べによるとこの母親は、女の子の体じゅうにあざや傷が残るほど蹴ったり殴ったりした他、ペット用のリードでくくり付けて自由を奪い、食事も満足に与えていなかったことがわかった。
さらに娘にどのような暴行を加えるか、その虐待方法について内縁の夫と相談していたらしい。

――――(うそでしょ……)

にわかには信じがたい母親の行為に、麻衣は煮え湯を飲まされたような気分になった。
そんな人間が実際にこの世にいると想像しただけでゾッとした。
テレビ画面に元気な頃の女の子と母親の写真が映される。
かわいそうに、この子は火傷の激痛にもだえながらひとりで死んでいったのだ……。

麻衣は吐き気をおぼえるほどに気分が悪くなり、喉元をおさえた。
こんなに可愛らしい無力な子供を、母親はあざができるほど何度も何度も殴りつけ、飢えさせ、熱湯をかけるというおぞましい方法で死ぬまでいじめ続けた……。
これが人間の所業か。
ここまで命を冒涜(ぼうとく)できるのか。


 
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