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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 
むさ苦しいところですが、と通された滝沢家の玄関は、余計な飾りつけもなく整然としていた。

『お邪魔します』

若干の緊張感を持ってパンプスを脱いだ麻衣は、履き物を揃えたあと、

『奥様にお線香あげさせていただいても
 よろしいでしょうか』

と、しおらしく身をすぼめた。
年齢に見合わぬ麻衣の律儀な態度に、滝沢は心入るものをおぼえ、深々と頭を下げた。

麻衣は、よそ様の家に初めてあがる緊張とは別に、結界をおかすような恐怖を少なからず感じながら滝沢のあとに続いた。
夕日に染まった和室の一角に小ぶりの仏壇が据えてあった。
留美子の遺影がありし日の微笑みを保っている。
きちんとご挨拶しなければ、そう思い、麻衣は仏前に線香をたてて合掌した。

しばらくのあいだ、留美子の冥福を静かに祈る。
麻衣はここへ来る道中でも面接試験を受けるような圧迫感を感じていた。
だが、手を合わせて瞑目(めいもく)するうちに徐々に緊張がとけてゆき、幼い直樹をおいて逝かねばならなかった留美子の無念に思いが至った。
そしてその思いはいつしか、麻衣の中で亡き母への想いと重なっていた。

持参した菓子折りを供えて滝沢に座礼したあと、麻衣は大切な務めをやり終えたような気がして、小さく息をついた。
ありがとうございます、と深く頭をたれた滝沢のうしろでレースのカーテンが風に揺れた。
遠くの蝉しぐれが聴こえた。


 
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