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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 
よるべない心のありようを伝えてくる麻衣の誠実さに、滝沢は心を打たれた。
とつとつとした麻衣の語調や吐露(とろ)された心情に、その人らしさのようなものが滲み出ていて、滝沢はようやく、留美子ではないひとりの女性として麻衣を見ることができた。

きっと、言い尽くせぬものがあるに違いない。
滝沢は、麻衣が謀(はかりごと)をめぐらせて、利を得ようとする人間だと思えなかった。
そうした人間に直樹が心を開くはずがない。
おそらく直樹は、篠原麻衣のパーソナリティにもっと早くから気づいていたのだ。
そう思い、篠原麻衣を見つめた。

『篠原さんが、
 直樹を手にするために私をダシにするような、
 そんな人間じゃないことはわかってます。
 もしそんな人なら、
 直樹は篠原さんに近づかないはずです。
 直樹の人を見る目って、
 意外にあなどれないんですよ。
 私も、最初は篠原さんに妻を見ていました。
 でもたった今、フィルターが外れました。
 私は、篠原麻衣という人を、
 もっと好きになりました』

滝沢が意思を言葉にし終えると、麻衣はうなだれて、涙の粒を床に落とした。
嬉しいのでも悲しいのでもない。
良心への咎めを、自分の代わりに滝沢がすべて引き受けてくれたような気がしたのだった。

麻衣の涙を、滝沢がぬぐうことはなかった。
ただ、目尻にしわの集まるいい笑顔で、

『コーヒー淹れますね。
 とっておきの豆があるんです』

と言い、腰の高いカウンターチェアへ麻衣をうながした。
キッチンで滝沢がアルミパックにはさみを入れると、コーヒー豆のいい匂いがした。


 
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