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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第9章 催眠暗示の生贄
 カーラがいるのは野戦場だった。

 落日の赤。夜の訪れを告げる寒風に吹きさらされた、カーラの乱れた髪の赤、そして一面に転がる兵士たちの死体から流れるドス黒い血の赤。

――なんでこんな所に?

 という思いが漠然と心の中にあったが、しかし解かれていていない本能的緊張は、まだ戦闘が終っていない事を告げている。

――まだ、何かいる。

 のそり、と眼前に黒い影が身を起こす。血の色をした夕陽を背に立ち上がるその影は、見る見るうちに天を突くほどにも大きくなる。

――やっぱりいたじゃねえか。ハハッ、こんなスゲエ奴が。

 見比べれば巨体のカーラが華奢にも見えようかというほどの巨漢だった。

 角兜の面当てが下ろされているため相手の表情は想像する他なかったが、怒張した全身の筋肉と、その太い腕に握りしめられた大斧を見れば男の次の行動は充分察しがついた。

――トキメクねェ……やる気かい。

 不敵に呟く。手にしたマスケットのアッシュを叩きつけてやろうと……した所ではじめてカーラは自分が徒手空拳であることに気づいた。

――あたしの武器は?

 ヴォン!

 戸惑った瞬間、大斧が一閃した。

 バシュウ!

――え?

 ぐらりと重心が崩れる。

 左腕がなくなっていた。肩の下あたりから何か水のような物が凄い勢いで噴き出ている。カーラは何が起きたのか理解できずにきょとんとしていた。

 ヴォン!

 再び斧の刃が風を切り裂く。

 スパアン!

 今度はわかった。目の前を自分の右腕が飛んでいく。

――あ……あたしの……腕!
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