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マスケッティア・オブリージュ ~凌辱の四美銃士~
第10章 ピエルの出陣
 ピエル・ド=ダンバジャン邸へと馬車を走らせながら、アプストンはため息をついていた。

(ピエルの旦那もこれで終いかねぇ……はあ……)

 いかに枢機卿の息子とはいえ、高等法院は分が悪かろう。

 法院つきの馭者であるアプストンは銃士隊の指示を受け、ピエルの護送馬車を差し向けている途上だった。

(旦那にゃこれまで何度もオイシイ目に合わせてもらっだか……)

 生きるにも死ぬにもカネのかかる腐った世の中である。博打の小遣い稼ぎや生活のための借金を工面するため、アプストンはこれまで馭者の仕事以外にピエルに色々と端仕事を世話してもらっていた。

 その中には、というかそのほとんどは他人に言えるような仕事ではなかったが、そんなことは生きるために市民の誰もがやっていることだ。

 大事なのは今を生きることだ。自分さえ良ければ他はどうでもいい。アプストンのような、そして大部分の貧しい市民達にとって人生とはそういうものであり、それが悪だとか正義だとか、そんなことは子供のときから大人となった今に至るまで一度だって疑問を持ったことなどなかった。

 そして汚れ仕事を引き受ける代わりに小遣いを用立ててくれるピエルは貴重な存在であり、それもこれで終わりかと思うと惜しかった。

 馭者台の上の小さな体がしょぼくれていっそう縮こまる。

 ピエルの私邸前の広場には多くの人が集まっていたが、かなり落ち着いているようだった。

 帰還した銃士の話によれば昼頃までは殺気だっていたというが、今ではただの野次馬達の集まりといった程度の雰囲気だった。

 重い足取りで正面の鉄門の前に馬車を止め、庭へと入る。そこにはピエルとよく付き合っている遊び仲間達が退屈そうに立ち番をしていた。アプストンも顔をよく見知った男だった。

「こりゃ若旦那方、ご機嫌よろしゅう……」
「おっ……馭者はお前かアプストン……良かった。手間が省けたぜ」
「へ?」
「いや、なんでもねえ……ワケありだからよ、知ってる奴のほうが面倒がなくてな」

「へ……へえ? ワケありってな、どういう……」
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