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藍の果て
第7章 疑惑

「何度も言った。それを言った所で、今更どうにもならない。あんたが王で、それは変わらないし、変える必要も無い」


「そう思ってんなら、王を殺す必要なんて無かっただろうが!」


僅かに瞳を細めたデイジーは、痛い所でも突かれたのか押し黙ってしまう。
ここに居るべき人間でない事は、シルヴァは重々承知していた。
一日でも早くここを去り、バルトに戻らなければならない立場である事も。
だからこそ……。


「俺は……納得のいく答えが欲しいだけだ。納得がいけば、直ぐにでもテメェの前から消える」


押し黙ってはいるが、デイジーの瞳は動揺している様子は無い。
笑っても怒ってもいない、感情の読み取れないままに、彼はただ淡々と呟く。


「悪いが……あんたが納得いく答えなんて、俺はきっと用意出来ない」


「もう、バルトには戻らねぇのか?」


過去を変えることはできない。シルヴァは本当に聞きたい本題を問いかける。
デイジーは強い、王の横たわる姿を見たとき、確信していた。
デイジーの事は気に入らないが、悔しい程に疎ましいと思う反面、一目も置いていた。
そして、そのデイジーは三年前、確かにシルヴァに言ったのだ。
『待っている』と。



「俺にはユリアが居る。ここを動くことは出来ないだろう」



結局、女か。やりきれない苛立ちがシルヴァの胸中を侵していく。
内心で三年前から、その言葉の意図を追いかけていた自分自身にも軽蔑しかけた時だった。



「俺は動くことは出来ないが、俺の最も信頼を置ける奴なら推薦出来る」



「テメェの推薦人なんて、どうせろくな奴じゃねぇだろう」


デイジー・クルスという男は特別だ。パルバナの民に目の前の男と同等な程の働きをする様な人間が居るとは思えない。
しかし、ある意味でデイジーの推薦人は予想外の遥か上をいく人物だった。



「俺と違って優秀だ。俺が育てた唯一の弟子だからな」



微かに口角を上げる笑みを浮かべたデイジーの推薦人が鮮明に記憶に宿ってくる。
ナイフを持ったその小さな身体で、女を守るために必死に抵抗してきた自分と同じブルーの瞳。
未だ残る赤い痕に自ら触れてみるが、出血の治まっている小さな筋は未だ鮮明に残っている。
ぎりっと唇を噛みしめてシルヴァは呟いていた。



「ふざけんなっ。あんなガキに何が出来る!?」
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