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その瞳に…
第29章 大人と子供
 「あの、すみません・・・少し考え事しててびっくりしてしまったので・・・」

 真っ赤になりながら、言い訳をするが、電話の向こうから大河の笑い声は止まらなかった。

 『クク・・・そう、それはすまなかったね・・・』

 あまり見る事が出来ない大河の笑いが見れない残念さと、自分の事で笑われている恥ずかしさで、舞奈はまた複雑な心境に陥ってしまった。

 「あの・・・先生、笑うのはその辺で・・・」

 そう言うと、電話の向こうから、ふぅと深呼吸が聞こえてきた。

 『そうだね。つい、君の電話の出方が可愛かったもんで』


 可愛い、その言葉に舞奈は嬉しさと照れくささを感じ、また顔が赤くなるのを感じる。

 (先生って、意外とこう言う事さらりと言うよね・・・)

 なんとなく、始めの頃はそう言う事をあまり言わないタイプだと思っていた舞奈は、大河は感情をあっさりと言葉にするタイプに、少し驚きを覚えた。

 『今日は、無事に何もなくて良かったよ。舞奈からのメッセージもだけど、さっき成滝からも連絡がきてね』

 突然、いつもの口調で話し始めた大河に、気持ちの切り替えがまだ出来ていなかった舞奈は、一瞬何の事が解らなかったが、渡辺の事だとすぐに思いだし、浮ついていた気持ちが、キュっと引き締まる。

 「はい。早百合さんにはお世話になりまして。あと、栄子さんにも」

 『そう。僕の方からも先ほどお礼は言っておいた。今度また店に来てと言われたから、また行こうか』

 「はい」

 何時。とははっきりとした決まりは無いが、大河と出かける約束が出来るだけで、舞奈は嬉しくなる。

 「あの、それで先生。彼のこれからを早百合さんから少し聞いたんですけど・・・」
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