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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔




 だが杏璃は官能小説を低俗な読み物だと端から決め付け、心に訴えかける響きはないと無視し、エロさえ書かれていればいいのだと軽んじた。


 春馬はそんな杏璃の安っぽい意中に腹を立てたのだ。


「今度こそ心入れ替えて取り組むから。だからその……もう一度、協力してください!」


 彼が拒否すれば独りでやるしかない。けれど出来ることなら、駄目な自分を叱咤してくれる人が傍にいて欲しい。


 杏璃は勇壮な眼差しで春馬に渾身の想いを伝えていると。


「……はぁ。来るのが遅い。気付くのも遅い」


 嘆息混じりで春馬の不機嫌な声が届く。


 やはり春馬の協力は仰げないかと、諦めて腰を浮かしかける。


「だが昆虫並みの頭脳の杏璃にしては、いい答えだ。まぁせめて虫から動物に進化してもらわないと困るけどな」


 痛烈な毒舌を浴びせられ、杏璃は唖然とする。しかし幾分か間を開け、やっと春馬らしさが戻ったことが嬉しくなり、堪えきれない笑みを滲ませて反論する。


「こ、昆虫よりはいいもん! 学校の成績だって悪くなかったんだからね!」


「勉強云々を言っているんじゃない。人生観が甘いんだよ、お前は。そんなんだから……くっ……三年も男に騙されるんだ」


「ちょっ! 今笑った!? 人の不幸を笑ったな!?」


 小馬鹿にする表情の春馬に人差し指を突き付けながらも、杏璃もついに笑いだしてしまった。







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