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妄想シンドローム
第3章 類はなんとやら




 傍から見たら三十手前のおっさんがにやけまくる気持ち悪い図だったろう。しかし男はまるで気にせず「気に入って頂けたなら、契約書にサインを」と事務的に告げる。


 総一は心ここにあらずといった風に契約書を受け取り、だが一通りおかしなことが書かれていないか目を通してサインをした。


 男が「ありがとうございました」と言って去ったあと、残されたのは総一と、今日から彼の家族となる猫だ。


 総一はリビングの中へゲージを運び込み、そっと扉を開けてやる。


 猫は緊張しているのだろうか、暫くは動かなかったものの、ややあってから恐る恐るゲージから出てきた。


 初めて見る人間、初めて見る景色。怯えて当然だ。


 総一は無理に抱こうとしたり、触ったりはせず、猫から歩み寄ってくるのを優しい声をかけながら待った。


 すると猫から脚にすり寄ってきたではないか。ようやくこれで触れる。


 驚かせないように「いい子だねぇ」と、どっちが猫か解らない猫撫で声で優しく背を撫でてみる。


 思った以上に柔らかな毛質に、感嘆の溜め息が洩れた。


 それから時間を忘れて猫と戯れていると、最初はフワフワの毛に隠れて見えていなかったが、首輪をしていることに気が付いた。


 その首輪には『RURU』とタグが付いている。


「キミはルルって言うの? 名前は考えてなかったから、そのまま呼ぼうかな」


 猫――ルルの鼻先を指で擽って問いかけると、ルルは嬉しそうにニャーと鳴いた。きっとこの名前が彼女も気に入っているのだろう。






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