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溺れる恋は藁をも掴む
第4章 心の景色
母さんは綺麗な人だった。

幼稚園の頃から、
友達に「お母さん綺麗だね」と言われ、
子供心にも、
それは嬉しくて、
自慢の母だった。


家でどんなに辛い喧嘩があっても、
外に出れば、それを微塵も感じさせない強さはあった。


やつれてしまった母さん。
髪に白髪が目立つようになった。


それでも、
学校などのPTAがある度に、
TPOに合う洋服を選び、
髪を染め、
化粧をして、
綺麗な姿で来てくれていた。

女のプライドみたいなものが、
あの人を支えていたのかもしれない?




親父が変わりだしたのは、
柊が生まれた頃だった。


勤めていた会社で人事異動があった。
元々、製本などの技術に携わっていたのに、
人柄の良さと真面目な性格を買われ、
営業職に抜擢された。


親父の勤めていた会社は、
いろんな会社などの、
パンフレットや看板などを手掛けていたが、
新しく、求人広告などの折り込みチラシなども、
手掛けるようになった。

営業などをした事のない親父。
それでも社長や人事担当者から、
「現場を知っている牧瀬君に任せたい。
一緒にやってくれないか?」
と、頼まれたらしい。

頼まれたら断われない親父。
製本技術の仕事が好きだっただけに悩んだ。


悩んだ挙句、
営業職をする事になった。


全く、畑違いの仕事。
来る日も来る日も取引先に頭を下げて、
頼んで回る日々。


飛び込み営業の仕事もするようになったり、
求人広告の新規事業を立ち上げる為、
雇ったテレホンアポインターのパートさんの、
面倒などもみるようになる。


毎日、仕事から帰ると、
グッタリとしていた。


新規事業がなかなか軌道に乗らず、
上司に怒鳴られたりする日も続く。



こんな事なら、
製本技術の仕事をこなしていた方が、
良かった‥‥‥




最初はそんな嘆きから始まった。


















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