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第3章 変装と女心

エレベータの鈴が鳴る。
黒いワンピースを身に纏い、フロアへ数歩進んだ真菜は、視界に広がる大人びた空間に立ち竦んだ。
薄暗い照明の中、フロアに置かれた木製のピアノが美しい。
窓の外は、まだ空の端に縋りつく太陽の日差しに照らされているが、フロアの奥の妖しい暗さは、初めて覗きこむサーカステントのような不思議な魅力があった。


真菜は素早く店内を見渡す。


窓辺に男が一人背を向けて座っている。
くたびれたスーツで、白髪交じりの後頭部が40代くらいを連想させる。
フロアの奥、薄暗い方には、今着たばかりなのだろう、カップルが丸テーブルに腰をかけているところだった。黒服のウェイターが接客している姿が見える。


（先生は、いない）


確信して、真菜は店員に、自分の教師のことを尋ねようとした。
２人のバーテンダーと、１人のウェイター。
その男を見つけた瞬間、真菜が一瞬、呼吸を止めた。


（え・・・）


真菜が小さく息を飲み、動きを止めた。