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講義の終わりにロマンスを
第3章 変装と女心
BARのBGMはJazzで統一されている。


ゆるやかな時間が流れ、ソフトドリンクを飲んでいた真菜も、微かに"空気に酔う"という感覚を味わい始めていた。


自分の教師は、BARで働いているが、決して不真面目な性格では無いはずだ。
それは、働いている姿を見ても、感じることが出来た。
無駄の無い動きで、ドリンクを差し出したり、入店した客に声をかけたり。


(きっと、私に秘密にしていたのも、理由があるはず・・・)


真菜は、2年程の付き合いで見てきた教師の顔を思い出し、一つ深呼吸をした。
グラスの中の氷が大分溶けて、オレンジは味が薄くなっていたが、真菜の気持ちは少しずつ色濃く定まってきた。


(帰ろう、かな)


自分が、この空間に見合っていないことは自覚している。
本当は、最初から長居をするつもりは無かったのだ。
このBARに、先生がお客として飲みに来ているのか確認する―――。
それが目的だったはず。


思いもよらない形で答えが導かれたけれど、決して嫌な思いは感じない。
むしろ、先生が働く場所が、こんなに素敵な場所で良かったと、今は思えていた。


真菜はグラスの中身を飲み干すと、コースターに置いた。
隣に座っている女性のコースターにも、同じカクテルグラスに同じ色のドリンクが入っていた。
きっと、自分がソフトドリンクを飲んでいるなんて誰にも気づかれないかもしれない。
こっそりと、大人のフリも、出来ていたのかもしれない。


(記念に、なった気もするし)


後は、明日の授業の時にとっておこうと思って、最後の悪戯に真菜は眼鏡を取り出した。
黒縁の眼鏡は、授業の時に欠かさずかけている。
これで最後の種明かし、そう考えながら眼鏡をかけた時、真菜の耳に来店の鈴の音が小さく聞こえた。

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