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講義の終わりにロマンスを
第3章 変装と女心
演奏の時間までなら大丈夫、という詩織の言葉に、小鳥遊は深く頭を下げてフロアに戻っていった。
狭い女性用控室で、小さな丸い椅子に腰を降ろし、真菜は無言のまま、ただ泣いている。
その耳に、詩織の、明るく優しい声音が響いた。


「ごめんなさい。この部屋、狭いよね。せっかくBARに来てくれたのに、あんまり見せちゃいけない場所、見せちゃったかな」


愉しげに語りながら彼女はスカートとサマーニットを脱ぐと、下着とストッキングだけの姿になる。
大人の女の肉体が目に入り、真菜の乾きかけた瞳が、また新たな涙で潤む。


「こないだは、制服だったよね?」

「・・・・・・」


詩織の言葉に、真菜は答えることが出来ない。
答えれば、より自分の未成熟さを認めることになりそうで、そんな考えに囚われることも悔しくなって、ただ唇を噛む。


「制服も可愛かったけど、ワンピースも素敵ね。凄く似合ってる」


歌うような詩織の声音にも、真菜の気持ちは沈んだままだ。
目に映えるワインレッドのドレスに着替えた詩織は姿見で自分の姿を確認すると、小さく「よし」と呟いてから、真菜の方へ振り向いた。
部屋の隅に置いてあった折りたたみの椅子を持ってきて、真菜と向かい合って腰を降ろす。


「さ、て、と~…。真菜ちゃん」


そっと手を伸ばすと、悲しみに暮れている少女の指を、迷いなく優しく握りこむ。
温もりに引かれるように、真菜が顔を上げた。


「どうして泣いてるの?」


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