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フルカラーの愛で縛って
第1章 檻
『フルカラーの愛で縛って』





都会の歓楽街の一角。8階建のビルの7階に、その店がある。
Jazz Bar 『Dance』。
今日も、フロア直通のエレベータに、誰かが乗り込む。





■檻■







もう7月だというのに、霧雨が音もなく降り続いている。


春先には美しく見えていた遠くの渓谷のなだらかなラインも、今は薄暗い靄に覆われて確認することができない。


詩織は走り去る電車の音を何となく耳に入れながら、ぼんやりとホームで立ち尽くしていた。


もう何度目だろう。こうして、躊躇い、悩み、考えるのは。
何度も経験しているのに、何度も同じように立ち止まる。

毎回、同じ穴に落ちてしまうように。
毎回、同じ罠にハマってしまうように。

逃れられないのは分かっているし、逃れるつもりが無い自分にも気付いている。
そんな自分を嫌悪するし、不快感も覚えるけれど、それでも、どうしようも無い。





―――2番線に、列車が参ります。





駅のアナウンスに釣られるように詩織が顔を上げた。
ホームの時計が12:45を指している。
平日の昼間、行き交うビジネスマン達は、傘を持ったままホームで物思いに耽る彼女のことを気にも留めない。


(行くしか、無いんだから)


詩織は今日も、結局同じ選択をして、慣れた階段を降りて、慣れた改札を通過した。



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