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Dolls…
第26章 Dolls…
「けど、向こうはもう新しい家庭を持ってたし、もう関係ないからって追い返された。

相手からしたらある意味うちの母親も裏切り者らしいな」


「そんな…」


世界でたった1人の母親なのに、裏切り者って。

けど、相手側はそんな事情は知らない。

椎葉さんのお父さんが裏から手を回して仕組んだ事なのだから。



「俺さえ産まれて来なければ母親は死ななくて済んだかも知れない。

あんな幸せで、残酷な夢を見ながら死ぬこともなかったかも知れない。

俺が…、母親に甘えすぎたんだ…」







椎葉さん…。

椎葉さんはずっと、そんな寂しい過去を抱えて生きて来たんだ。

誰を恨めばいいかわからず、誰にも何も話せないままずっと生きてきたんだ。



「尚人は俺の母親が亡くなった事実しか知らない。

俺もこんな話を人に聞かせたのは初めてだ。

母親は最期まで何も知らなかったし、父親も最期まで何も喋らなかった。

この世でこの事情を知ってるのは俺だけだ。

それと、お前だけって事になっちまったな」





優しい瞳で私を見つめる椎葉さん。






私はずっと、椎葉さんが嫌いだった。

いつも何を考えてるかわからなくて…、この屋敷に来た日からいつも酷いことばかりされて

何度も何度も心の中で罵倒してた。



私は、本当の椎葉さんを知ろうともしなかった。

こんなに悲しい過去を背負って、ずっと1人で戦っていたとも知らずに…。

私の瞳から涙が溢れ落ちる。

一粒、二粒…と、涙が止まることなく溢れて来る。




「だから、椿…。俺を愛しても、俺はお前に何もしてやれない。

人から愛されるのがどうしようもなく恐い」





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