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ネムリヒメ.
第23章  薔薇の刺、棘の鎖.





その答えは簡単だった


「"シドウナギサ"…だって♪」

「え…」


シドウナギサ…

渚…くん!?

渚くん!!


オトコが口にした名前に、頭の靄が一瞬晴れて、虚ろだった瞳に光が差す


「せっかくだし…」

「っ……は、あ…はぁ…」


…助けて


「聞きたい!? 渚の声」


渚くん…助けて


オトコはわざとらしくアタシの目の前に携帯電話をかざすと、着信を受けるなり通話をスピーカに切り替えた


「はーい♪」

『…っ郁、今どこでなにしてる』


………!!


スピーカーから聞こえた渚くんの声

その声はどこか切羽詰まったような声だけど、ものすごく長い間ずっと聞いてなかったような懐かしさを覚えさせるものだった


「なにって…」

「っ…なぎ……ッ───!!」


─渚くん


すぐにでも彼の名を叫びたかった


─助けて…


許されるなら彼にそう叫びたかった


…だけどできなかった

具体的には許されなかったのだ


「オレ、今…取り込み中なんだけどな」


ニッコリと挑発的に頬笑むオトコの手に再び握られた寡黙な黒い光を放つ凶器に、息が詰まって出かかった言葉を飲み込んだ

トリガーに指を掛けらた状態の拳銃が、カチャリと無機質な音をたて、硬直したままのアタシに真っ直ぐに向けられていたのだ


「ッ……」


声をあげたら撃たれる…


そう物語るオトコの笑みに襲ってくる恐怖と真っ黒な絶望感

カラダは熱いままなのに、背中がヒヤッとする





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