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言われてみれば、単純で。
第1章 おれのきもちはフクザツで。
「貰ったのはいいですけど、どこにしまえばいいですか?」

キョーちゃんの両手に一杯になったボタン。
確かにそうだよね。

「じゃあ、これ」

俺が取り出したのは中学の名前が書かれた小振りの茶封筒。
それを広げるとキョーちゃんは両手で一杯になったボタンをざらざらと入れた。
その封筒をくしゃっと折り、中が出ないようにしてまた彼女に戻す。

「このボタン、小テストの時の
 ゴミ箱って言ったことの仕返しですか?」

「まあ、そうだと思うんだったらそれでいいよ」

「私はゴミ箱じゃないですけどね」

「キョーちゃんでしょ」

「その通りです。丹羽先輩、呼ばれてますよ」

友人達がこちらを見て俺を呼んでいる。
もう少し話したかったけど、多分キョーちゃんもキョーちゃんで忙しそうだったので
俺達はここでさよならした。

「あ、うん。キョーちゃん、じゃあね」

「はい。丹羽先輩、卒業おめでとう御座いました。勉強頑張ってくださいね」

「キョーちゃん、ホントそればっかな」

「まあ、それ以外に先輩に言えることないですから」

「そっか。じゃあ俺頑張るわ」



友人達は俺のボタンがない制服を指差して笑った。
無理強いして渡してたのも見てたらしく、どうせ捨てられるとも言われた。


捨てられてもいいと思って渡したんだ。
ただ、俺が彼女にボタンを渡した、という行為をしてみたかっただけなのだから。


キョーちゃん、ありがとう。
君のお陰で、結構楽しく過ごせたよ。

もう会えないかもしれない、と言われてもわかんないけど、
俺とキョーちゃんが一緒に過ごしたときに着ていた制服のボタン。
それがキョーちゃんの物になったとき、俺は少しだけ彼女と何かを共有できた気がした。

ずっと彼女の近くに自分の分身がいればいいと思った。
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