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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

――本当は弱いくせにな……。

 景仁は、かつて感じたことのない深い感情の激流に飲まれた。湧き上がる激しい想いのまま、静かに口を開く。

「涼子」

 穏やかで、それでいて熱く、深い。この静かで愛おしい時間に名を付けるとしたら、なんと呼ぼう。

「左手を出してくれ」
「え?」

 唐突な要求に戸惑いながらも、彼女はカウンターの上に左手を差し出した。その白く細い手の甲に、景仁も自分の左手を重ね、冷たい肌を温めるように優しく包んだ。

「ねえ、お客さんが来たらどうするの」

 引き抜かれそうになるその手を逃がさぬよう、重ねる手に力を込める。抵抗しようとする涼子の深い瞳を無言で見つめると、彼女は困惑の表情でまばたきを繰り返した。

「やめて……」

 もはや言葉だけの抵抗。返事のかわりにその手を指で優しく撫でる。

「だめよ、ねえ……」

 切ない熱を帯びた視線を絡ませながら、景仁は瞳で語りかける。

――もう独りで頑張らなくていい。一緒に生きて、一緒に歳を重ねよう。

 そうして、彼女の薬指をそっとなぞった。

「……っ」

 直感的になにかを感じ取ったのか、彼女はこちらを見つめたまま、それ以上なにも言わなかった。見上げてくる潤んだ瞳に、真っ直ぐな視線で応える。すると、彼女がとても優しい笑みを浮かべた。
 やはり言葉などいらない。その表情がすべてを物語っている。そもそも言葉で表現できることなど、際限なく湧き出てくる感情のごく一部に過ぎないのだ。心はもっと複雑で、深く、計り知れないものだから。

 薄暗い照明の中、時間が止まったように見つめ合う二人を包む空気が、まるで光をまとったように明るく煌めいている気がした。
 店内に流れるピアノは、愛を唄う。聖なる夜に漂う美しいその音色は、言葉のない静かな愛の形だ。


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