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琥珀色に染まるとき
第21章 記憶の中の彼女を
第二十一章 記憶の中の彼女を
――涼子と僕の邪魔をする奴は許さない。
十一年前、真耶に促されて警察でつらい思いを打ち明けたとき、すべてが解決すると信じていた。男との接触を完全に断ち、警察を介して男の行為を否定した――あの対応が、かえって男の焦燥感と絶望感を煽り、逆上させるきっかけになっていたとも知らずに。
涼子を警察へ導いた張本人が真耶だと逆恨みした男は、怒りの矛先を彼女にまで向けていた。雇われた共犯者たちとともに男が現れたあの日、それを初めて思い知らされた。
それでも――話せばわかってくれる、真摯に対応すれば諦めてくれると、どこかで期待していた。だが通用しなかった。ひそかに立てた自らの計画を遂行しようとする男の顔には、なにかに取り憑かれたような、あるいはなにかに急きたてられているような、おぞましいほどの必死さがひそんでいた。
脳裏にこびりついたあの表情がよみがえるたびに思う。いったいどうすればよかったのだろう。あれほどまでの憎悪を向けられ、どうすることができただろう――。
「……っ」
つかの間の悪夢から目覚めたとき、ビル群に囲まれていた明るい夜の街の景色は、郊外の暗いそれに変わっていた。だんだんとうるさくなる、胸の中で記憶の扉を乱暴に叩く音。
この車はきっと、あの場所に向かっている――涼子はそう確信した。
走り続けた車は、やがて静かな山奥にたどりついた。あたりはすっかり暗闇に包まれており、まるで意図的に森の中に隠されているようだ。
ゆっくりと停車しエンジン音がやむと、小林がドアを開けた。そして、足元に放ってある涼子の私用携帯を拾い上げ、車を降りる。そこには涼子の持っていたバッグも落ちていたが、拉致の痕跡を残さないように持ってきたのだろう。