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琥珀色に染まるとき
第24章 THE NEARNESS OF YOU
第二十四章 THE NEARNESS OF YOU
腕の中で静かな寝息を立てる女が、もぞもぞと胸に顔をすり寄せるようにして抱きついてきた。
景仁は、その小さな頭を手のひらでそっと包み、艶やかな暗髪を優しく撫で下ろすと、涼子の細い身体を強く抱き返した。
極上な素肌の感触と、長い髪からかすかに発される女の香りを堪能しながら、窓のほうへ薄目をやる。わずかに開いたカーテンの向こうはまだ薄暗い。
この地の冬は日の出が遅い。少なくとも午前八時よりは前ということになるが、何時なのかわからない。時計を確認する気もない。この女とこうしていられるのなら、時間などどうでもいい。
まどろみの中で再生される、情事中のたおやかな姿――。無理をさせてしまった、と景仁は思った。喘ぎを一つでもこぼすまいと引き結んだその唇からは、いつもより早く――おそらく彼女にとってはようやく――訪れた最後の瞬間、すすり泣きのような声が漏れた。
大好き、と囁いてからものの数分で眠りに落ちた彼女を、自然に目が覚めるまで寝かせておいてやりたい。
涼子を起こさないように極力ゆっくりと身体を離し、ベッドから抜け出してガウンを羽織ると、寝室を出てリビングに向かった。両親は朝の日課である散歩に出かけたようで、誰もいない。寒いのによくやるなあ、と思いながらキッチンを覗くと、軽い食事と置手紙があった。
のんびりと年金暮らしを愉しんでいる彼らは、近くの美術館や行きつけのバーに行ったり、ときには車でどこかに出かけたりしている。たまに弟家族が顔を見せにきて、孫と一緒に遊ぶのだとルルが電話で嬉しそうに教えてくれたことがある。
いつか、そんな日が自分にも訪れるだろうか。未来を想像して、景仁は一人微笑んだ。