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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

「からかってなんかいないよ。こんなに素敵な女性、男なら放っておかないって話さ。ついでにお嬢さんに忠告しておくよ。マスターもしょせんただの男だ。気をつけたほうがいい」

 そうして、大人の男のウインクを見せる。このおじさまはきっと相当モテるのだろう。

「煙草、いいかな」
「構いません」

 涼子が柔らかな微笑を浮かべて返すと、タツは彫りの深い顔を甘く崩し、スーツの内ポケットから洒落たシガレットケースを取り出した。それに気づいた西嶋が、カウンターの上にさりげなく灰皿を差し出す。
 ちらりと目を向ければ、西嶋と視線が重なった。薄く口角を上げて微笑んでいるが、そこには艶めいた熱が残っているようにも見える。

 しょせん、ただの男――その言葉が頭にこびりついて離れない。これ以上ここにいてはだめだ。
 そう思ったとき、西嶋が入り口寄りの席に座る客に呼ばれた。店内はほぼ満席になっている。離れていくその背中を眺めながら、彼がこちらに戻ってきたら今度こそ会計を頼もうと決める。

 少し離れたところで作業を始めたその姿を見つめる。無駄のないしなやかな動きに見惚れていると、その瞬間、涼子は自らを大いに恥じた。
 気が動転していたせいで目に入っていなかったが、西嶋が着ているシャツは昨夜の暗灰色とは違って真白だった。涙か口紅でどこか汚してしまわなかったかと今さらながら気になり、とたんに羞恥心に襲われる。

 一人でうろたえていると、不意にタツの声がした。

「お嬢さん、お名前は?」

 驚いて視線を移すと、タツは目線だけをこちらに向けながら煙を吐いている。

「……東雲、涼子です」
「涼子さんか。いい名前だ」

 それで満足したのか、タツは旨そうに煙草を吸った。灰を落とし、ふうっと煙を吐いてから、今度はしっかりとこちらに顔を向けて言った。

「恋する女の瞳は美しいね。涼子さん」


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