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金木犀
第5章 傷ついた心





何ですぐ気付けなかった?


「呼び出されてる」


って言ってたじゃねぇか。


何呑気に結衣に相談しに行ってんだ、
何呑気に家に帰って待ってんだ。


愛歩はこんな痛い思いをしてたのに。


どうして気付いてやれなかった。


どうして…


「愛歩…っ」


俺がしっかりしていれば。


「…っ、愛歩…」


俺がもっと早く自分の気持ちに気付いていれば。


「ごめんなっ…」


愛歩の傍にいてやれば、
こんな事にはならなかった筈なのに…


もう、遅い…








愛歩の体を洗ってやり、ピルを飲ませてから
愛歩の家に送り、事情説明すると
愛歩の兄貴に思いきり殴られた。


「二度と愛歩と関わるな」


そう言われて追い出された。


扉が閉まる直前、悲痛な表情で俺を見つめていた
愛歩の表情が頭にこびりつく。


「愛歩っ…愛歩!!」


狂ったように愛歩の名前を呼び続け、
鍵を開けて出て来た愛歩の兄貴に再び殴られた。


「愛歩っ…」


それからどうやって家に帰ったのか覚えていない。


気付いたら自分の部屋にいて、
愛歩の名前を呼んで泣いていた。


愛歩…お願いだから。


笑顔を見せてよ…


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