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金木犀
第6章 それぞれの思い






病院から少し離れた所で乱暴に腕を離され、
俺を射貫くように見つめる愛歩の兄貴。


いつもなら、すぐ殴られるのに。


俺らは暫く睨み合っていた。


先に目を逸らしたのは愛歩の兄貴だった。


「…お前のせいだ」


小さく呟かれた言葉。


「…え?」


よく聞き取れなかった為、聞き返すと。


「全部…お前のせいだ、何もかも。
お前がいなかったら、愛歩はあんな風にならなかった」


「…だからっ、…っ」


…もう。


言い訳すら聞いて貰えないんだろう。


それに。


あの時、愛歩を助けてやれる人間がいたとしたら…
間違いなく、俺だ。


俺が、愛歩を待っていてやれば。


「…俺はな、お前が大嫌いなんだよ」


…はあ。


うん…だろうな。


毎日のように懲りずに俺をぶん殴るくらいだし。


…それに。


「愛歩に頼られて、好かれて。
気持ちも伝えられる立場のお前が憎くて仕方ない」


濁った鋭い目を俺に向ける愛歩の兄貴。


その目には、涙が滲んでいた。


「嫌いだ…お前なんか、大っ嫌いだ。
何度、殺してやろうと思ったか…
…だけど、…っ、だけど…っ」


ゆっくりしゃがみこむ愛歩の兄貴…


俺はただ、愛歩の兄貴の言葉に耳を傾けた。


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