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愛しては、ならない
第45章 小さな逃避行


夕夏は、母親と二人暮らしなのだそうだ。

母親は若い頃熱を上げていたバンドマンとの間に子供が出来たが、結婚はしなかったらしい。

その子供が夕夏。

今でもロックバンドが好きで、仕事が休みの時には東京までの距離ならライヴを見に出掛ける。

今夜はそう言うわけで不在なのだ。

どうやら、ライヴに通ううちに何のバンドかは分からないが、メンバーと『深い仲』になったらしく、ライヴの後泊まったりもするらしい。

父親が居ないのに男物の衣類が常に置いてあるのは、母親が「彼がもし泊まりに来たときの為」に用意してあるらしい。

だが決して家の事を疎かにする人ではなく、ライヴが好きな事以外は普通の親だ、と夕夏が言っていた。

家の事も二人で協力しあってやっているらしい。

部屋の雑然とした雰囲気の中に、普段の母子の仲睦まじい様子が垣間見える様な気がして、俺は少し頬を緩めた。

俺が知らない、『本当の親子』の関係のひとつの形だ。

スコア等が載っている本格的な雑誌があり、何となく眺めていたら、バラードでどこか心に引っ掛かるメロデイーの曲を見つけ、音符を追っているうちに無意識に口ずさんでいた。

長調で明るい音階の曲なのに、何処かもの悲しさを感じさせるその曲は、日本人のバンドの曲だが歌詞が殆ど英語だった。

恐らくサビと思われる部分だけが日本語だった。

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