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愛しては、ならない
第48章 喪われた記憶と


その表情も声色も、ひたむきな眼差しも、微かに震える手も、全てが演技などとは思えなかった。

真に、悟志は記憶を無くした事を謝っている。

剛に対しての疑いや、私への不信、全てを忘却しているらしい。

でも、それで心が休まるという問題ではなかった。

悟志は、何故、他の事は覚えているのに、剛の事だけを忘れてしまったのか。



悟志は、私の頬を包んでいた手を肩に滑らせ、背中へと回して抱き締めてきた。

私は猛烈に泣きたくなってしまったが、唇を結んでどうにか堪えていた。

だが、悟志の手が子供にするように背中をトントン、と叩き始めて、私の涙が押し出される様に溢れる。



「……ごめんね……菊野にとって大切な人の事を……忘れて……」

「さ……としさ……」

「僕が倒れて、皆が大変だったんだよね。
それなのに、もっと大変な風にしてごめんね……」

「――」

「僕が全部悪い。ごめんね……菊野……」

「さとし……さん」

「思い出せなくても、僕があの剛って子に出来る事は何でもするから……」



そう言った悟志の目は、以前と同じ様に優しかった。






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