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愛しては、ならない
第52章 最後に、もう一度だけ



私は、慌てて掌で顔を覆う。

思えば、昨夜は殆ど眠れていない上にずっと泣き通しだったのだ。きっと酷く疲れた顔をしているに違いない。

やつれて醜いこんな姿を、彼に見られたくない……



「菊野……さん?」



シャボンの薫りがフワリと漂い、彼が近付いて来たのが分かると、私はソファに顔を埋めて呻いた。



「……私を見ないで」

「――っ……」

「私……ずっと泣いているの……色んな事があって……頭がぐちゃぐちゃなの……
剛さんに……あんな酷い事を言った癖に……つ……剛さんが他の女の子と、一緒に居たって事を聞いて……私……っ」



彼が息を呑む気配を感じた。

きっと呆れているのだろう。当たり前だ。私の方から拒絶しておいて、嫉妬しているんだという事を彼に言うなんて。

私は何をしているんだろう。

これじゃあ、彼から離れるどころか、愛を告白しているのと同じじゃないの?


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