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第56章 二十歳の同窓会

「ごめんなさい……本当にごめんなさい……剛君を、本気で好きだったの……それは信じて」




俺の気に入っていた舌足らずな声、しゃくりあげて乱れる息遣いが色香を醸し出し、俺は思わず欲情した。

別れ話を切り出されているというのに、だ。

だが、それだけだった。

菊野と別れた時の様な、胸どころか身体全部が張り裂けんばかりの痛みを伴う苦しさなど微塵も無い。

恋が終わる時にあんな苦痛が待ち受けているのなら、恋などしない方が良いのではないか――等と思ったりした。

だが、夕夏の真っ直ぐで、時に予測の付かない愛情の示しかたに俺は好意を持っていたし、彼女とのセックスにも夢中だった。

俺は夕夏を好きで、夕夏も俺を好きで――きっと彼女との日々が、菊野との事を過去にするのだろう、と俺は思っていた。

まさか、呆気なく彼女の方から離れていくなど予想もしていなかった。