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愛しては、ならない
第59章 再会②



既に八時を過ぎてしまっているが、菊野はまだぐっすりと眠っている。

桃色と深紅の中間、と言うのだろうか。彼女の唇はそんな綺麗な色だった。

頬も薄く色付いて、白い肌にかかる髪の艶やかな黒。

その色彩の美しさに心を奪われて、俺は馬鹿みたいにただただ菊野に見惚れていた。

こんなに儚げで、夢の様に綺麗な物がこの世にあるのだろうか。

その頬に触れようと手を伸ばした瞬間、彼女の小鼻がヒクヒクと動いたか思うと、大きなくしゃみをして身体が大きく動いてその瞼が開かれた。



「……」



彼女は、目の前にある俺の顔をマジマジと見つめ、大きく口を開けている。

その表情は、ビックリ箱を知らずに開け面食らった小さな子供の様にあどけなかった。



――可愛い……



そんな思いがどうしようもない程溢れ、今すぐ抱き締めてしまいたくなるが、グッと堪えて彼女の手を握り締める。




「ただいま……菊野さん……」


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