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愛しては、ならない
第29章 虚しい演技を止める時


腕の中で、彼女が小さく溜め息を吐いたが、それは甘いというよりは、何か自分の中で折り合いを付けようとする儀式の一種に聞こえた。

昨夜、俺達は殆ど眠っていない。

何度も何度も貪りあって、疲れ果てて、朝方に一時間ほど眠っただけだった。

思う存分に彼女を愛して、俺の身体と精神は、昨日までのどこか鬱々とした気だるさが消え去っていた。

だが、菊野は流石に疲れたのだろう。

時々小さな欠伸をしては、目尻に涙を溜めている。

彼女は薄く微笑むと、そっと俺の腕をほどいた。

その頬はまだ赤く染まっていたが、彼女の目には強い光が宿っている。

――何を考えているのだろう。

これからの俺との距離の取り方なのか、いかにして俺を宥めて普通の息子のように振る舞わせるにはどうしたらいいのか、等考えを巡らせているのだろうか?
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