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愛しては、ならない
第29章 虚しい演技を止める時


「――っ!」

菊野に胸を押される前に、俺は彼女から離れた。


「ここからそのまま学校へ行きます……
菊野さん、少し休んだほうがいいですよ……

じゃあ、行ってきます」


何かを言いたげな彼女の唇が言葉を発する前に、俺は背を向け、ここから一本道の先にある学校に向かい歩き出す。

彼女は、今どんな表情で俺の背中を見詰めているのだろうか。

その目には、また涙が溢れそうに光っているのだろうか?

一晩中、抱き締めて触れていたのに、もう彼女の肌が恋しかった。

今すぐ引き返し、この腕の中に彼女を包みたい。

本当にそうしてしまおうかと歩みを止めた時、俺がよく知る人物の声が前から聞こえた。


「剛い~おっはー!
今日はまた一段と男前だな~」


10メートル程先で、鞄を持ち上げ背伸びするような体勢で、森本が笑っていた。



――朝から厄介な奴に会ってしまった。



密かに舌打ちし、奴に手を上げた。
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