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愛しては、ならない
第31章 企み


「菊野さ――」


振り返り、呼んでみると菊野は森本と家に向かって歩き出していた。

俺の声が聞こえないのか、彼女は森本が熱心に話し掛けているのを見て笑って頷いている。

言い様のない不安と喪失感の様な何かに苛まれ、俺の目は遠ざかる二人の姿を追い続けていたが、清崎の指が不意に力を込めて俺の掌を握り締め、その

力に驚き、彼女を見た。

掌には痛みさえ感じられる。

彼女の小さな爪が食い込み、握られた場所は白くなっていた。


「剛君――」


彼女の桜を思わせる唇が、ゆっくりと動き、俺はそれに魅せられる如く見いる。


「……なに?」


唇が、躊躇うように一度閉じたが、ややあって再び開く。


「私を……抱いて……

今すぐ……」






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