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愛しては、ならない
第33章 壊れるほどに


弾こうとした導入部のメロディを、彼のしなやかな指が難なく弾くのをうっとりと見詰めていたが、彼が耳に囁いて来る。


「菊野さんは、ピアノを習わなかったの?」


「うん……小さな頃に母が教えてくれた事もあったんだけど……

私が練習嫌いで……

絵本を読んだり、お料理をする方が好きだったから……」


剛は、涼やかな小さな笑いを溢し、鍵盤から指を離すと私の身体を包み込んだ。

きゅう、と胸の奥がときめいて、同時に目眩をおぼえた。



「あいつ……森本……」


バクン、と心臓が跳ねたのを、彼に悟られなければいいが。

私はなるべく平静を装う。


「森本君……?がどうかしたの?」


「――俺が聞きたい事が、わかっているでしょう?」


剛の声に、少しの苛立ちと嫉妬が混じっているのを、私は嬉しいと思ってしまう。


「ううん……わからないわ」


私がとぼけると、彼の腕に力が込められた。





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