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ここで待ってるから。
第5章 快楽の一日。
 翌日。土曜日の朝、洗濯機の音で目が覚める。
 あのまま帰ってからリビングのソファで寝てしまったようで、服もそのまま。
 上半身を起こし、嫁入り前の女の格好じゃないよな…と呟き、キッチンに向かう。冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し、一口飲む。

「おはようございます、橙子さん。」

 夏が爽やか笑顔で、山盛りの洗った洗濯物をカゴに持ってリビングに入ってくる。

「んー、おはよう。」

「今、ご飯炊けるから。それまで、シャワー浴びてきたらどうですか?」

 ボサボサの髪に、化粧崩れの顔。若干怠い身体に鞭打ち風呂場に向かう。
 夏はベランダに出て、洗濯物を干しはじめる。
 その後ろ姿は今までに見た事がない、夏の姿。
 心の隅を小さな、小さな感情が芽生える。


 シャワーを浴びて、部屋着に着替え髪を乾かす。リビングに行くと、テーブルには朝食が用意されていた。

「うわぁ、美味しそう。」

 スクランブルエッグ。簡単なサラダ。味噌汁に炊きたてのご飯。誰かが作ってくれる料理はいつでも嬉しい。

「料理は得意じゃないけど。どうぞ。」

「これだけ出来れば、十分だと思うよ。」

 テーブルに着き、箸を持った瞬間メールの着信音。
 昨夜、ソファに放り出しそのまま置き忘れていた。夏が取りに行ってくれて、画面を見てそのまま私に差し出す。

「深山…さんだね。」

「あ、うん。」

 メールは開かず、そっとテーブルに置く。

「見ないの?」

 夏はサラダをつつきながら、私を見る。
 
「後で、見る。今はご飯の時間だし。」

「…橙子さんの癖。気持ちを押さえ込んだり、誤魔化したりするとさ、下唇を噛むんだよね。知ってた?」

 夏は意地悪そうに笑う。
 そう言われれば、下唇を噛んでいるわ。…昔からそうだったのかな。

 観念して、ケータイを持ちメールを開く。

『今日、日付が変わる頃には帰る。俺の部屋で待ってて。』

 涼介のマンションに来いって事ね。
 チラッと夏を見る。

「…今日、一緒にどこか出掛ける?」

「…深山さんとこ行きたいの?」

 …会いたい、のか自問する。

 夏と目を合わせる事が出来ない。
 後ろめたさと申し訳なさで一杯になる。
 
 やっぱり、涼介に会いたいな。

「うん。行きたい…。」

 夏はニッコリ笑う。

「じゃあ、俺の言う事聞いて。」


 
 
 
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