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セルフヌード
第5章 少女と被虐




「りの!」

「あ……なつ、み……」

「こいつ──…」

「後ろ!!」


 りのの生気をなくした目が、にわかに開いた。

 立ち上がった男の一人が、なつみに手を上げていた。


「何をしている!お前達……!!」

「っ……」

 嗄れた声が、男達の刹那を止めた。

 血相を変えて走ってきたのは、年のほどは六十近くと見られる男だ。日曜の夜というのに鼠色の頭はしかつめらしくセットして、固いスーツに身を着込んでいる。

 男達の標的は、すぐさま初老の第三者に変わった。


 なつみの腕の中にいたりのが、にわかに身を固くした。


「何だよおっさん」

「年寄りに用はねぇん──…お、お前は……」

「りの、……君も、行け!!」



 なつみは、りのの腕を引いて駆け出す。


 途中、りのの手がなつみの指を求めた。


 数年振りに触れた親友の手のひらを握り、じきに表通りに至った。


 明るい道は、なつみに何事もなかったかのように思わせた。

 繋いだ手のあるじから、震えの止まる気配はない。


「りの」

「ぅ……ぐす……」

「怖かったよね。どっか痛くない?……大丈夫。大丈夫だから、とりあえず、駐車場まで一緒に来られる?」





 堰の切れたように頼りなくなった親友は、おざなりに衣服を整えて、なつみの車に乗り込むと、ぽつりぽつりと口舌を声にしていった。


 りのを手篭めにしてきた男には、長年連れ添った配偶者がいて、彼女が何かしらの問題に勘づいている可能性があったこと。男の名前は都修造。《ひかりのそら》の理事を務める役員だ。さっき現れた男こそ、修造本人であるということ──…。



「多分……あの人達を、雇ったのは……奥様。……」



 たった数分の帰路が途方もなく長く感じる。


 騒ぎの元凶が身内でなかったことに人心地がつきながら、純粋に礼を言うりのがいたたまれない。
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