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セルフヌード
第8章 *最終章*セルフヌード

* * * * * * *



 張りつめた開放感に巻かれて、子供達が帰路に急ぐ。


 学習塾の受付事務は、知られざる人間模様が眺められる。


 重たげなスクールバッグを担いだ受験生達に流れ作業的な愛想を振る舞いながら、美優は秘めやかな醍醐味を賞翫していた。



「美優」

「良くんっ」

 美優のいたカウンター越しに、会社帰りのスーツを着込んだ男の姿が見えた。

「近くまで来たから、……咲希、どうだ?」

「普通、かな」

「おおっ、それは良かった」

「良いのかなぁ。良くん、咲希は◯◯中学に入れたいって言ってたじゃない。これじゃあ合格率低いよ」

「別に良いぞ、第一俺は──…」



「お母さんっ、おじちゃん!」


 快活な少女の声が、美優と良の間を割って入った。


 母親が声を潜めているのにお構いなしだ。

 ツインに結った長い黒髪、パステルカラーが大半を占める、受験生らしからぬワンピースとカーディガン、さしずめ春の妖精を気取った小学六年生が、上階から駆け下りてきた。


「咲希。塾では相田さん、でしょ」

「やだー。自分のことさん付けしているみたいじゃない」

「ちょっとっ……それに髪、ダメじゃない、塾ではリボンを外しなさいって何度も──…」

「お父さんがつけてくれたんだもん。受験生だからこそ、辛気臭い格好はダメって。お母さんの好みに合わせていたら、運勢まで暗くなっちゃうんだって!」

「──……」

「はは、一理ありますね。相田さん」


 隣でペンを走らせていた教師が笑った。

 この白髪頭のベテラン教師は、今しがた咲希が父親と呼んだ女を見る度に鼻の下を伸ばしている内の一人だ。


「…………」
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