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セルフヌード
第1章 秘密の快楽

「コーヒーで良い?」

「美優は紅茶だろ」

「うん」

「美味い?」

「私は好き」

「俺も今日はそっち」

「っ……」

 秘密基地を見つけた子供のような顔が、紙面の壁から覗いていた。


「──……」



 心臓には、生涯鼓動可能寿命というものがあるという。

 人間に与えられた運気も同じだ。美優は使い果たした。

 良から愛の告白を受けた十五の時分に半分を、そして九年前、二十四歳の誕生日、エンゲージリングをもらった瞬間、払底した。





 美しくさえ生まれていたなら、変わっていた。美しくさえあったなら。



 コンプレックスは疑雲をもたらす。美優に備わる自己愛は、他人に比べて薄弱だ。

 良の真摯な想いを受けとめながら、疑ってもいた。
 帰宅のキスも、出発のキスも、良は美優に求めない。セックスは、一晩につき一度きりだ。美優が果てたところで終わる。しかも毎回、同じ愛撫に同じささめき。定石通りだ。
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