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私は犬
第29章 諦めろ*
目の前の神部君は、お肉の乗ったどんぶり物を、綺麗な仕草で口に運んでいた。逃げ出したいけど、その前に、謝らなくちゃいけない気がする。

「連絡をせずに、ごめんなさい……。」

やっとの思いでそう告げると

「…気にしないで。」

と、小さな声が返ってきた。

良かった…。気を悪くしている訳ではなさそうだ。謝罪は済ませたのだから、今すぐここから立ち去りたい…。

「今度、誘ってもいいかな?食事とか…。連絡先を教えて欲しい。」

小さく呟くような声でそう言われて、返答に困ってしまう。どうしよう…。早くどこかに行きたいのに…。

「アドレスだけなら。」

うん。アドレスだけなら、きっと大丈夫…。この人は悪い人じゃないもの。

紙とペンを貸して頂いて、小さく書いて渡した。これで、大丈夫。

・・・・・・・・・・・・・・・・

長い長い1日が終わった。帰宅する頃には1日中私を悩ませ続けた、いやらしい疼きはすっかり薄れて、身体はいつもの日常を取り戻し始めていた。昨日、貪るように食べ続けたキャラメルも、今日は食べずに済みそう。

得体の知れない食欲に悩まされされたり、性欲に身体を乗っ取られたり、近頃、心身共に、とっても忙しい気がする。
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