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私は犬
第32章 我慢の限界*
「ねぇ…何でいつもビジネスクラスなのよっ…。」

機内で席に座るなり、剛ちゃんがまた文句を言い出した。何度目かしら?このやり取り…。

「私はビジネスで十分なの。身分相応って言うでしょ。」

自分だけならエコノミーで済ませる事もある。

「あんたケチよねぇ…。ハーッ…わたし、ファーストクラスに1度で良いから乗ってみたい…。」

「乗ればいいじゃない。どなたにでもチケットを売ってくださるわ。」

「あんたって、本当、意地悪ね……。」

はいはい。なんとでも言って下さい。どの席に座っても、チューリッヒまでの12時間が短くなる事なんてないんだからねっ。

子供の頃、お父さまやお母さまはファーストクラスに乗って、私は付き添いの方とエコノミーに乗っていた。

『どうしてお父さま達と同じお席じゃないの?』と尋ねたら、

『あのお席に相応しいマナーを、きちんと身に付ける迄は、お父さま達と同じお席には座れませんよ。』と、付き添いの方に言い含められたっけ…。

お食事もそう。子供は大人の楽しむ場所には、連れて行って貰えなかった。少しでも文句を言うと、

『ああいう場所に相応しい女性になれるよう、今からきちんとお勉強しましょう。』

そう言われて、お作法のお勉強が始まったっけ。
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