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私は犬
第32章 我慢の限界*
翌日には、横田さんも村上さんも、無事に従来のお仕事に戻れたみたい。春木さんにそう聞いて少し安心した。

空港で、送迎の運転手がいつもの横田さんでは無かった時点で、何かがおかしいと気付くべきだったのかもしれないと、今更ながら思う。

それからは、午前中は様々な検査や口腔内のケアを受けて。療養食を食べながら、プログラム通りにフィットネスや地下のエステで全身をケアして頂く日々が続いた。

タラソテラピーにアーユルヴェーダ。このクリニックのオリジナル化粧品を使って、世界中のエステが集約されたかのような施術メニューが日替りで続く。まるでエステの品評会の審査員になった気分。

全身のピーリングと、医療施設ならではの、最新マシーンによる入念なトリートメントを終えて、おば様のお部屋に顔を出した。

「真子ちゃん!待ってたの。ちょっとこれ見てっ!」

おば様はそう言って、幾つかの分厚いカタログを差し出す。さっきみえたコーディネーターの方が置いていかれたのだろう。

「これなんか素敵じゃない?こっちの花柄っ!可愛らしいわぁ〜。」

ロココやアールヌーボーから、少しだけ離れてはくれないかしら…。

「……そういう、シャトーのような壁紙じゃない方がいいと思うわ。」

「じゃあ、この花柄っ!モダンで素敵よ!」

「斬新すぎない方が、落ち着くと思うの……。」

これも仕事のうちかしら…?
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