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私は犬
第32章 我慢の限界*
「さっきテレーザさんが来て、それ、鍋ごと置いてったよ。」

調理の手を止めたアルメリコが、そう教えてくれた。これもスイスでは冬の煮込み料理だけど、夏も冬もどうでもいいわ。

「今日は7人分でいいんだっけ?もっと作る?」

別荘に滞在してる、秘書さんが3人、イザークさんにテレーザさん、剛ちゃんと私…。もしかして…。

「アルメリコも食べて行けば?」

「そう来なくっちゃ!」

アルメリコは、そう言うと嬉しそうにニヤリと笑った。

夕方、皆で囲むメインダイニングのテーブルに、多国籍料理たちが並ぶ。大きなラクレットオーブンを中心に、テレーザさんの乾燥インゲン煮込み、バスク地方の魚とピーマンの辛いトマト煮込み、生ハムやオリーブの乗ったピンチョス、

この、チーズとスイカとバジルのライム味のサラダなんてギリシャ料理だし。レマン湖で捕れる川スズキのフライは、フランスのアルザス地方の郷土料理。スイスチャードと馬鈴薯とサーモンのラザニアはこの地方のスイス料理。

文化が全部混ざってる。

「白ワインで伸ばすチーズフォンデュは、どっちかつうと、ありゃフランス料理だ。」

酔ったアルメリコが、横田さんと英語でそんな会話をしている。

「だなぁ。ああやってチーズを伸ばすなら水か牛乳の方がウマイ。」

イザークさんまで英語で参戦し始めた。

上手い下手はともかく、皆、英語が話せる。だから会話が何とか成立している。
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