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私は犬
第33章 さよなら
「うるさいっ!」

「……逃げないでちゃんと考えろ。違う何かで、誤魔化してんじゃねぇ…。」

「誤魔化してなんかないっ!黙って!」

「じゃあ、何で1日中、取り付かれたみたいに何かしてんだ?暇さえあれば刺繍して、機内でもつまんねぇ本読み漁って、お前、火山岩と地質構造なんて本読んで楽しいか?地質学者にでもなるのか?」

うるさいっ、うるさいっ、うるさいっ!私に指図しないでっ。もう何も聞きたくない。

「どこ行く?」

「客間で寝るわ。お疲れでしょうから、あなたはここでゆっくり休んで。ごきげんよう。」

余りの煩わしさに、そう告げて枕を持ってベッドから抜け出すと、有史さんまでベッドを抜けて着いてきた。

「逃げんなよ…。」

逃げ?まさか。これは心の安息を保つための、一時的な避難であって逃げじゃない。私は逃げたりなんかしない。

「いいからここにいろ…。」

有史さんは、そう言うなり、私の身体を無理矢理ベッドへ押し戻した。もう、反論する事も…逆らう事すら面倒くさい…。

有史さんは、薄手のケットで私をすっぽり包むと、髪を撫でながら、また背中をトントンし始めた。もう、どうでもいい…好きにすれば?

トクトクと有史さんの心臓の鼓動が聞こえる。抱き込まれた腕の中が、酷く暑苦しく感じられて仕方なかった。
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