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陽炎 ー第二夜ー
第2章 勝負師
翌日。

帰る道でも、俺はまだふわふわしていた。

市サンはニヤけた声で、

「良かったろ?筆下ろしの記念に高い娼妓つけてやったんだからよ、感謝しろよ?」

「うん。すげぇ気持ち良かった。また連れて来てね」

市サンは俺の頭を軽く叩いて、

「馬鹿野郎、一回だけだ。図に乗んな。次はてめぇで稼いだ金で来い。」

「稼ぐ…?」

「そうだ。またここに来たかったら稼げ。生きるってなぁな、てめぇの欲満たすトコから始まンだ。腹減ったら飯食うだろ?ただ食うんじゃなく、もっと美味いモン食いてぇ、いい酒が呑みてぇ、いい女抱きてぇ、皆欲だ。欲満たすにゃあ金が要る。その為に稼ぐンだ」

「欲を満たす…」

「人の欲ってなぁ尽きねぇように出来てっからよ、稼いだ金使って、それで世の中回ってくんだ。わかるか?」

俺はコクリと頷いた。

「その内に、てめぇの欲満たすだけじゃなく、違うもんが望みになることもある。」

「違うものって?」

「守りたいもん、コイツの為ならてめぇの全部賭けてもいいって思えるような相手に出会えたら、最高の人生だと思うぜ?」

「市サンには、そういう人が居るの?」

「いや?まだ探してるトコだ。俺もまだまだてめぇの欲満たすのに手一杯よ。」

そう言って笑った市サンが、最後に願ったのは、猫ちゃんとの平穏な家庭だった。
市サンにとっては猫ちゃんが、その守りたい存在だったんだろう。
…結局、市サンはそれを掴むことはできなかったけど…

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