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陽炎 ー第二夜ー
第2章 勝負師
行く所もなく、ふらふら歩いていたら、急に懐かしい声が聞こえた。

「鷺じゃないか!」

「兵衛?」

「久方ぶりじゃの。今はどうしておるんだ?」

「どうこもうも。女のヒモになり損ねて彷徨ってるよ。」

兵衛は豪快に笑った。

「そっちこそ。その様子じゃ、物乞いじゃなさそうだけど?」

「なんとかの。今は小石川に住んでおる。」

「何、家あんの?あんたも女の世話になってるクチ?意外だね。」

「世話になっておるというか…まぁ、食事くらいはな。」

「なんだよ、所帯持ったのか。らしくないね。」

「所帯なんぞじゃぁない。ただ、蜘蛛を一匹飼うておるだけよ。」

「蜘蛛って、飼うもんなの?家に巣くってるだけじゃなくて?」

「餌を与えておるからな。飼っておる。」

「変なの。」

「小石川の高石養生所と看板の出とる家じゃ。近くに来たら寄ってくれ」

そう言って、兵衛は離れていった。
上手くやってるみたいだ。
やっぱり、心配する相手じゃなかった。



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