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弓月 舞 after story 集
第7章 君の視線が絡み付く

私に絡み付く毒蛇が、チロチロと舌を出して食べる隙をうかがっている。

その瞬間に怯えているの。

だから少しでも長引かせなきゃって…!

「…これ で、先にbの値が求まって…‥‥」

「……」

「値を式に代入するの‥…ッ‥…そしたら」

「a=5/12π、だね」

「…っ」

「Pの軌跡が求まったよ。
 ……解説ありがと、センセ」

…なのに彼は、こんなささやかな抵抗さえ、私に許してくれなくて。

「センセの説明はわかりやすいね」

でまかせだとバレバレな褒め言葉で、抵抗の時間をさっさと終わらせてしまった。

「…ッ…‥ハァ…‥ユウキ…くん」

「……」

解説を終えた参考書を置く。それこそ、音も立たないくらいにゆっくりと──。

すると隣でテーブルにもたれていたユウキくんも、重怠そうに身体を起こした。

彼の右手がこちらへ伸びる。

額に貼り付いた私の前髪を耳にかけ、そのまま顔を持って引き寄せられた。

すぐに反対側の手も添えられる。

私は彼の両手に顔を挟まれ、少し強引に彼のほうへ向かされた。




さっきまで上目遣いだった目が、今度は至近距離で私を見下ろしてる。


「汗を拭いてあげたいけど、手元にタオルが無い」

「ハァ……ハァ……」

「だから舐めていい?」


首が直角に曲がって…ますます呼吸がやり辛い。

暑さにやられて朦朧とした頭は

ユウキくんのぶっ飛んだ言葉を、容易には理解できないらしい。


「って言うか、逃げるなら今しかないと思うんだけど……」

「ハァ、ァ…」

「聞こえてる?」

「……動け ない」


ただ…彼の言葉が何であれ私はもう動けなかった。

逃げられない。

今となっては逃げたいのかも……わからない。


「…‥ユウキくんのせいで‥‥動けない」

「……フ」


また涙が出そうになるのを堪え(コラエ)て、非難がましく彼を睨んだ。

なのにユウキくんは、ナゼか頬を赤らめて

これ以上ないほど優しい微笑みを浮かべた後、そっと唇を重ねてきた。


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