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禁断の果実に口づけを
第16章 砂の城
 
 「珍しいね。
父さんが俺にそんな事を言うなんてさ」

 輝の視線も健を見ていなかった。
携帯ゲームの画面を見ながら、指をピコピコ動かしている。

 「ウザいか?」

 「別に」

 「たまにはお前と話したいと思ってな」

 「とうとう母さんと離婚するとか?
なら俺もちゃんと現実見ないとね」

 「輝……」

 ゲームを一旦辞めて、やっと健の顔を見た輝。

 「一番くだらないのは、両親が不仲でありながらも、それに目を背けて普通の高校生を演じている俺自身だよ。父さん」

 「……済まない。済まなかった……輝。
俺だけが鈍感になって好き勝手してきて」

 「やっと気づいたの?
母さんも母さんで、父さんに相手にされない分、迷惑な程、俺に過保護になって誤魔化してきたけど、最近は違うものを見る様になってくれて、正直ホッとしてんだよね。
何にも知らないと思った?」

 「本当に済まない。輝」

 健はマジマジと輝を見て謝った。

 「今更遅いよ。父さん。
けど安心して。
俺は、今が一番安定してんだよね。
煩い母さんからも解放されて、やりたい放題だった父さんが俺に頭を下げてる。
気分爽快だよ。
ならさ、たった一つ俺に夢があるとしたら叶えてくれる?」

 「何だ。その夢は?」

 「どっちの親にも期待しない代わりに、離婚でゴタゴタするのを見せられるくらいなら、留学させてくれない?
煩い日常からも離れて一人になりたいんだ。
親権はどっちでもいいから。
俺にとってはどっちもどっちだからね」

 「……考えておいていいか……」

 「宜しくね」

 輝は一言そう言うと、またゲームを再開し、視線はそちらに注がれた。

 「悪かったな。邪魔して」

 健も一言残して輝の部屋を出た。

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